結論:やめとけが当てはまる人と、当てはまらない人
最初に結論から示します。「やめとけ」は学校の問題ではなく、入り方の問題です。
同じ学校に通っても、目的を持って入った人と、なんとなく入った人では結果がまったく変わります。批判の多くは後者の失敗談です。
これは根性論ではありません。学費の回収も、就職の成否も、入学前に決められる条件でほぼ説明できるからです。
「やめとけ」はどちらの人に向けられた言葉か
当てはまりやすい人
- なんとなく絵が好きだから進む
- 入学すれば就職できると思っている
- 学費を誰がどう払うか決めていない
当てはまりにくい人
- 就きたい仕事が具体的にある
- 在学中も自主制作を続けられる
- 学費の総額と払い方を把握している
図1:やめとけが当てはまる人・当てはまらない人
自分がどちら側かを先に確かめておきましょう。当てはまる項目が1つでもあれば、出願の前に立ち止まる価値があります。
イラスト専門学校はやめとけと言われる5つの理由
検索結果やSNSで語られる批判は、おおむね5つに集約できます。まず全体を眺めてから、1つずつ中身を見ていきます。
発信者の立場にも注意してください。「やめとけ」記事の多くは、別の学校や講座へ誘導するために書かれています。
検索結果やSNSで見かける代表的な5つの主張
3授業レベルが低い
初心者に合わせるので物足りない
図2:イラスト専門学校はやめとけと言われる5つの理由
理由1:学費が高い
2年制でおよそ300万円という金額が「高すぎる」と言われます。金額そのものは事実で、実額は次章で示します。
この批判が刺さるのは、多くの人が総額を知らずに検討を始めるからです。初年度の金額だけを見て入学し、2年目の納入で慌てる家庭は珍しくありません。
ただし金額の大小だけでは、高いか安いかは判断できません。問題は、その中身と回収の見込みを確認せずに払うことです。
理由2:卒業しても就職できない
イラストレーターの正社員求人は数が限られ、競争も激しい分野です。ここは事実として受け止める必要があります。
企業に「イラストレーター」という職種で入るより、ゲーム会社やデザイン制作会社に2DデザイナーやCGデザイナーとして入る形が主流です。求人の探し方を知らないと「仕事がない」ように見えます。
また「専門卒だから就職できない」とも限りません。採用で見られるのは学歴よりポートフォリオの中身だからです。
理由3:授業のレベルが低い
専門学校の多くは入学試験で画力を問いません。美大のように実技試験で選抜しないため、入学時点の実力には大きな幅があります。
授業は初心者に合わせて始まるので、経験者には物足りない時期があるのは本当です。この不満が「レベルが低い」という評判になります。
ただし課題の外で描く量は自分で決められます。授業レベルの不満は、上位層ほど自主制作で埋めています。
講評や設備は、描く量が多い人ほど価値を発揮します。授業を「上限」ではなく「下限」と捉えられるかが分かれ目です。
理由4:独学で十分
教材や講座がネットにそろった今、技術だけなら独学でも学べます。実際、独学からプロになった人も大勢います。
この主張の弱点は、続けられる人が少数だという点にあります。締切も講評もない環境で、2年間毎日描き続けるのは想像以上に難しいことです。
専門学校が売っているのは技術より環境です。締切のある課題、プロによる講評、同じ目標を持つ仲間は、独学では手に入りにくいものです。
理由5:闇・末路といった噂
「中退が多い」「卒業後はフリーター」という話は、途中で目的を見失った人の結末が拡散されたものです。強い言葉ほど広まりやすく、うまくいった人の話は表に出にくい構造があります。
個人の体験談には、噂を打ち消す材料も裏付ける材料もありません。母数も条件も分からないからです。
確かめるべきは噂ではなく、志望校が公表している実績の中身です。確認の観点は第4章と第7章で示します。
検証①:学費は本当に「払えないほど高い」のか
まず実額を見ます。イラスト系の学科を持つ大手校の例として、代々木アニメーション学院の2027年度の学費を示します。
2年制イラスト系学科の実例(代々木アニメーション学院・2027年度)
- 1年次(入学金20万円を含む)1,674,500円
- 2年次1,388,500円
2年間の合計 3,063,000円(全学科共通・税込)
金額は2027年度学生募集要項より。学校によって異なるため、志望校の募集要項で総額を確認する。
図3:イラスト専門学校の学費の実例
この金額は授業料だけでなく、施設設備費や教育関連諸費まで含んだ総額です。テキスト代や教材費が学費に含まれるかは、学校によって扱いが違います。
比較するときは、次の3点をそろえてください。
- 卒業までの総額か、初年度だけの金額か
- 教材費・実習費・端末代が含まれているか
- 免除制度や特待生制度を使った後の実質負担額か
学費の中身を分解して見る
「高い」と感じる金額も、分解すると評価が変わることがあります。学費には授業そのものだけでなく、機材・ソフトウェア・展示会・就職サポートの費用が含まれているためです。
独学で同等の環境をそろえると、液晶タブレット・PC・有料講座・添削だけでも相応の金額になります。比べるべきは学費の絶対額ではなく、同じ環境を自力でそろえた場合との差額です。
ただし、何が学費に含まれるかは学校ごとに違います。端末やソフトを自分で用意する学校もあるため、募集要項の注記まで読んでください。
免除・特待生制度で実質負担を下げる
額面の学費がすべてではありません。多くの学校に学費免除や特待生の制度があり、条件を満たせば実質負担を下げられます。
たとえば代アニにはAO入学の学費免除があり、出願時期が早いほど免除額が大きくなる仕組みです。制度は併用可否や対象年次に細かい条件があるため、金額だけで飛びつかないことも大切です。
同校の学費の内訳と免除5制度は、別記事で詳しく解説しています。
一括で払えない場合の手段もある
「300万円を用意できないからやめとけ」も早計です。学校提携の教育ローン、国の教育ローン、新聞奨学生制度など、分割や借入の手段が一般に用意されています。
ただし借入は卒業後の返済を背負う選択です。免除制度で額面を減らしてから、足りない分だけ借りる順番で検討してください。
検証②:「就職できない」は本当か
結論から言うと、学校が掲げる「就職率」だけでは判断できません。数字の作り方が学校によって違うからです。
同じ「就職率」でも、分母によって意味がまったく違う
よくある計算
- 分母=就職を希望した人
- 進学・フリーランス・未希望者は除外
- 高い数字が出やすい
確かめたい計算
- 分母=卒業した人全員
- 絵の仕事に就いた人だけを分子にする
- 実態に近い数字になる
文部科学省も「就職率」の算定方法の取り扱いを大学等へ通知しており、定義の確認は公式に求められている。
図4:就職率の2つの計算方法
分母を「就職希望者」に絞れば、率は簡単に90%を超えます。進学した人、フリーランスになった人、就職活動をやめた人は計算から外れるためです。
就職実績で確認したい3つのポイント
実態を知りたいなら、率ではなく中身を見ます。確認したいのは次の3点です。
- 就職先の社名と職種が公表されているか
- 「業界内就職」の定義に、アルバイトや業務委託が混ざっていないか
- 直近だけでなく、複数年の実績が示されているか
社名・職種・人数まで公表している学校は、実績に自信がある学校です。オープンキャンパスで聞けば、パンフレットにない詳細も答えてくれます。
採用を決めるのはポートフォリオ
ゲーム会社や制作会社の採用は、作品集の提出がほぼ必須です。学校名は書類の1行にすぎず、合否を分けるのはポートフォリオの完成度です。
つまり「専門学校に行けば就職できる」も「専門卒では就職できない」も、どちらも不正確です。在学中にどれだけの作品を仕上げたかが結果を決めます。
フリーランス・業務委託という働き方
イラストの仕事は、正社員だけではありません。SNSや作品投稿サイト経由の依頼、業務委託での継続案件など、雇用によらない働き方が広がっています。
この働き方は「就職率」には表れません。就職率が低く見える学校に、フリーランスで活動する卒業生が多いこともあり得るため、率より中身の確認が必要になります。
生成AIで仕事はなくなるのか
近年は「AIに置き換えられるからやめとけ」という声も加わりました。制作の現場でAIツールの利用が広がっているのは事実です。
一方で、発注者の意図を読み取り、修正に応え、権利関係を整理する仕事はなくなっていません。求められるスキルの構成が変わる時期だからこそ、独学か進学かにかかわらず、基礎画力とツール対応の両方が要ります。
数字で見る進路の現在地
進路選び全体の傾向も押さえておきましょう。文部科学省の令和7年度学校基本統計(確定値)によると、高校卒業者のうち専門学校へ進学した人の割合は14.4%でした。
前年より0.7ポイント下がっており、大学進学に流れる傾向が続いています。だからこそ専門学校を選ぶなら、その学校でなければ得られないものを言葉にできるかが問われます。
専門学校・大学・独学はどう違うのか
やめとけ論の多くは、この3つの選択肢の混同から生まれます。構造の違いを先に整理します。
高校卒業後の3つのルートと得られるもの
図5:専門学校・大学・独学の構造の違い
それぞれの向き不向きは次のとおりです。
費用は専門学校・大学とも学校差が大きいため、必ず各校の募集要項で総額を確認してください。「学費が高いからやめとけ」は、総額を見ずに言えることではありません。
専門学校と大学で迷ったら
年齢と目的で考えます。早く現場に出たい高校生なら専門学校、進路をまだ絞り切れないなら大学が安全です。
就職先の選択肢も違います。4年制大学卒を応募条件にする企業が一部にあるため、志望業界の求人票を先に見ておくと迷いが減ります。
専門学校と独学で迷ったら
お金より前に、続ける仕組みで考えます。締切がなくても描ける人は独学で伸び、締切がないと止まる人は環境を買う価値があります。
判断がつかないなら、まず3か月の独学を試してください。続いたかどうかが、そのまま答えになります。
高校生と社会人で重心が変わる
高校生は、保護者と資金計画を共有できるかが先です。学費を出す人と目的を共有できていないと、途中の変更がすべて衝突になります。
社会人は、仕事と両立できる課程があるかが先です。どのルートでも描く量が実力を決めるため、「どこなら自分が描き続けられるか」で選んでください。
後悔しやすい人の特徴と、行く価値がある人の特徴
分かれ目は入学後の姿勢ではなく、入学前に決まっています。判断の分岐を図にすると次のようになります。
入学前の2つの質問で、結果はほぼ決まる
Q1. 卒業後に就きたい仕事を、職種名で言えるか
▼
言えない
- 入学しても課題をこなすだけになりやすい
- まず独学や講座で適性を確かめる
言える
- Q2. 課題以外に描く時間を取れるか
- 取れるなら、専門学校は投資に見合う
図7:後悔する人と価値を得る人の分岐
後悔した人の話をたどると、多くは「就きたい職種を決めないまま入学した」に行き着きます。目的のない2年間は、300万円で買うには高すぎる時間です。
逆に、目的と制作習慣がある人にとって、設備と講評と仲間がそろう2年間は独学より速く進めます。同じ300万円でも、回収できる人とできない人がいるだけです。
典型的な後悔は2つあります。1つ目は「入学がゴールになり、課題以外に何も描かないまま就職期を迎える」パターンです。
2つ目は「学費の計画が崩れて中退する」パターンです。どちらも学校の質ではなく、入学前の準備で防げる失敗です。
いま職種名を言えなくても、悲観する必要はありません。オープンキャンパスや職業調べで具体化してから出願しても、遅くはないからです。
やめとけで終わらせない学校の選び方5ステップ
行くと決めたら、学校選びで失敗の芽を摘みます。確認の順番は次のとおりです。
入学してから後悔しないための確認の順番
募集要項を取り寄せ、学費の総額と納入期日を確認する
▼
就職実績は「率」ではなく、就職先の社名と職種まで見る
▼
在校生・卒業生の作品のレベルを自分の目で確かめる
▼
オープンキャンパスで授業と講師を体験する
▼
免除制度・特待生制度の条件と締切を確認する
図6:失敗しない学校選びの5ステップ
とくに手を抜けないのが1と2です。学費は総額と納入期日まで、就職実績は社名と職種まで確認してください。
3の作品確認は、パンフレットではなく学校の公式SNSや卒業制作展で行います。在校生の平均レベルは、2年後の自分の周辺環境だからです。
4のオープンキャンパスでは、体験授業の内容より講師との距離感を見てください。質問しやすい環境かどうかは、入学後の成長速度に直結します。
5の免除・特待生制度は締切が早いものが多く、知らずに逃すと数十万円の差になります。資料請求の段階で、締切だけ先に控えておくのが確実です。
複数校を比べるときは、同じ条件表を自分で作るのがおすすめです。総額・免除後の実質額・就職先の中身・通学時間の4項目をそろえるだけで、判断は大きく変わります。
最後に、自分に合う学び方をもう一度確かめておきましょう。
よくある質問
イラスト専門学校について、進路相談で特に多い5つの疑問に答えます。
イラスト専門学校の学費はいくらですか?
2年制の実例では総額3,063,000円です(代々木アニメーション学院・2027年度、全学科共通)。学校差があるため、必ず各校の募集要項で総額を確認してください。
就職率が高い学校なら安心ですか?
率だけでは判断できません。分母が就職希望者なのか卒業者全員なのかで数字は大きく変わるため、就職先の社名・職種まで公表しているかを見てください。
独学と専門学校はどちらがよいですか?
適性を確かめる段階なら独学、職種を決めて最短で就職したいなら専門学校が向きます。迷う場合は、独学を数か月続けられるかを先に試すのが安全です。
社会人からでも通えますか?
通えます。夜間課程や通信課程を持つ学校があり、働きながら学ぶ前提のカリキュラムが組まれています。
ただし昼間の課程とは、学べる内容や費用が異なります。仕事との両立を考えるなら、授業時間と課題量まで確認してください。
やめとけと言われて迷っています。どう判断すればよいですか?
他人の結論ではなく、学費の総額・就職実績の中身・自分の目的の3点で判断してください。この3つがそろえば、やめとけは自分には当てはまらないと言い切れます。
まとめ:やめとけかどうかは、自分の条件で決まる
本記事では、イラスト専門学校がやめとけと言われる5つの理由、学費の実額、就職率の読み方、学び方の選び分けについて解説しました。
批判の大半は、目的を決めずに入学した人の失敗談です。学校の善し悪しより先に、自分の目的と資金計画が問われます。
迷ったときの判断材料は、学費の総額・就職実績の中身・自分の目的の3つです。この3つがそろえば、他人の言葉に揺らされずに決められます。
パンフレットの言葉ではなく、募集要項と公表データで確かめてから決めてください。それができた時点で、やめとけはあなたに向けられた言葉ではなくなります。